グローカル・ハタラクラスぐんま
プロジェクト
外国人住民の文化的多様性を考慮した協働実践型研究

科学研究費補助金 基盤研究(B) 特設分野
「外国人住民の文化的多様性を考慮した
高齢期ライフプラン作成のための 協働実践型研究」

取組の内容DETAIL

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「高齢期」への備えに関する不安要因の抽出

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(1)「高齢期」に備えることへの知識・行動・構えに関する実態調査
本取組に先行して、2012年7月に、伊勢崎市内のブラジル、ペルー、フィリピン、ベトナムコミュニティで、フィールドワークを集中的に実施し、中高年者の生活実態を把握しました。その中で、日常生活における「高齢期」への見方・考え方、「高齢期」の備えに対する行動の様相を、外国人住民の視点で理解し、なぜ、どのよう意識・行動の多様性が生まれるのかを検討しました。
本取組では伊勢崎市でのフィールドワークを踏襲し、2014年以降、毎年6月に太田市・伊勢崎市・大泉町近郷に住む外国人住民を対象に)「高齢期」に備えることへの知識・行動・構えに関するヒアリング調査を重ねていきました。

(2)「高齢期」への不安要因の抽出
外国人住民が日本でむかえる「高齢期」に対して抱える不安要因として、防災・健康・年金・介護・地域のおつきあいの5つが週絀されました。この分析結果をもとに、それぞれのテーマに応じたCBPR実践を展開することにしました。

「日本でむかえる「高齢期」への不安要因を解消するためのCBPR実践の展開

外国人住民が日本でむかえる「高齢期」に対して抱える5つの不安要因の解消を、地域協働で取り組み、外国人住民が地域の人々と共に主体的に対処できるようにするために、テーマ別ワークショップを開催しました。開いたワークショップは、2014年9月に開始して以来、60回を数える(2020年2月現在)。

防災ワークショップ

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体力づくりワークショップ

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健康管理ワークショップ

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年金ワークショップ

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防災ワークショップ

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冠婚葬祭ワークショップ

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循環し反復して積み上げるCBPR実践の展開

CBPRを構成する5つの要素、すなわち、(1)健康課題を感じとる、(2)メンバーを集め組織をつくる、(3)健康問題を明確にする、(4)計画をつくり実践する、(5)活動を評価し普及する、という5つの取組は、さまざまな参加者でらせん型に循環し、反復しながら積み上げられていきます。その循環を図示すると次のようになります。住民・地域関係者の参加によるワークショップを核に、CPBR運営スタッフとの事前事後の会合回数は102回となっています(2020年2月現在)。

※図をクリックすると拡大表示されます。

CBPRの図①
CBPRの図②
CBPRの図③
CBPRの図④
CBPRの図⑤
CBPRの図⑥

CBPR実践を通して得られた知見

CBPR実践からは、さまざまな知見が得られました。ここでは、すでに公開されている知見のひとつを紹介します。

外国人住民に日本で「高齢期」を送る備えをしてもらうための日本語教育を考える際に、私たちは、全国各地で展開されてきた「多文化共生」の先行事例を調べてみました。保健・医療、教育、介護、年金、防災等、この取組でも外国人住民からの「高齢期」への不安要因として抽出されたテーマが確認されました。それぞれの取組には基本的に、共通する現状認識がありました。それは、地域住民向けの情報が、外国人住民には「日本語の壁」により、十分に伝わっていない、ということです。その現実を踏まえ、よりわかりやすく・伝わりやすい方策を、先行事例では、検討し実践していました。具体的には、外国人住民の母語で伝える多言語での情報提供や、複雑で抽象的な用語や婉曲的な表現を可能な限り除き、外国人住民にとってわかりやすい、「やさしい日本語」で情報提供をするという実践でした。

私たちも、CBPR実践に取り組む過程で、「やさしい日本語」を組み込んでみました。確かに、「やさしい日本語」は、「高齢期」への不安要因の解消に貢献していました。自治体等が提供する情報を外国人住民が理解することを助け、地域関係者が外国人住民に対するコミュニケーションを促す動機づけになっていました。しかし、外国人住民には、「高齢期」に対する不安要因を解消する方策を「やさしい日本語」で「理解」しても、必ずしも「行動」には移していないことがしばしばあることが判明しました。

その事例を、年金や防災など具体的なテーマを設定したワークショップでのやりとりを質的に分析したところ、情報提供をする地域関係者あるいは専門家の語りには、次の2つの暗黙の前提が確認されました(結城 2015)。

ひとつ目の前提は、日本社会のルールは基本的に変えないという前提です。例えば、コミュニケーション支援の内容は、日本社会のルールを多言語で、あるいは、わかりやすい日本語で伝えるという方法は検討されるが、伝えるルールが在日外国人にとってどう見えるのかは、ほとんど問われることはありませんでした。ふたつ目の前提は、在日外国人が日本社会に適応するための方法は、日本人が教えなくてはならないとする前提です。そこには、在日外国人自身がもつ適応能力を認め、その伸長を支援しようという視座はほとんど見いだされませんでした。ましてや、在日外国人の自助・共助の力を引き出し、支援するという発想は、ほとんど確認できませんでした(結城2016)。

外国人住民が「高齢期」への不安要因を解消するにあたり、主体的に、「理解すること」から「行動すること」に移行する、異なる文化・社会環境のなかでの経験に裏付け、積み上げられてきた「価値観」にアプローチする必要がある、というのが、私たちが、らせん型のCBPR実践の過程で導き出した仮説のひとつです。この仮説に基づき、従来のワークショップは2016年度頃から形を変え、相互理解・相互尊重型のワークショップに転換をしました。今もなお、らせん型のCBPR実践を重ねながら、知見を導き出し、仮説の検証を続けています。

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結城恵 2015,
「転換期にある在日外国人政策―多文化共生政策からダイバーシティ政策に 求められる視座―」 公職研 『月刊地方自治 職員研修』 675号,6月。
結城恵 2016,
「多文化共生の課題と多文化共生推進士養成の取組」 文化看護学会,『文化看護学 会誌』 8(1),16-20頁。

外国人住民の文化的多様性を考慮した高齢期ライフプラン作成のための協働実践型研究

住所

〒371-8510
群馬県前橋市荒牧町四丁目2番地
TEL027-220-7382
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